「青白いなんて不思議ですね…。」

炉の中で熱している瑠璃硝子の石を見つめながら、その炎の色を不思議そうに見つめるベドゥを見つめ、僕は静かに口を開いた。

「そうだね…。普通は朱くなるのに、この石は石自体がその瑠璃の色で炎を染めてしまうんだ。でも芯は僕達が思うよりもずっと熱くて、白くなるんだよ。」

成程…と言う様に頷きながら、ズボンのポッケからメモ帳を取り出すと、今しがた話したことをサラのページへと書きこんでいる。真面目な彼ならではの事だ。
そのメモ帳はもう何冊目になっただろか?メモを取っては後でちゃんとまとめてノートに描き直しているのを、僕は知っている。

「さ、そろそろ良い頃だね。ここからは手早く仕上げないといけない。メモは…後でね。」
「あ、はい!」

顔を上げたベドゥはいそいそとそれをしまい、今しがた熱せられ炉から出しても青く燃える石が、
これからどんな風になるのかを、その歳特有とでもいうべき興味深々な目をして眺めている。
僕はまだ青く燃えるその石を、濡らした厚手の布の上に置き、大ぶりの金槌で一撃を与える。
”キーン…”という、まるで断末魔を上げるかのような音を立てると、石はプゥと一瞬で膨らみシャボン玉のような球体になる。
まだ熱を持ち柔らかいそれをキュッっと上へ持ちあげると丁度ランプの火屋の様な形になった。
石が繋がる棒の先端を切り落とし平らにすると、徐々にその色が薄い透明な瑠璃色へと変わる。
そしてピッ…ピキッ…と音を立てながら平らな表面にひび割れが入って行く。

「ユルヨさん!ヒビが…!?割れてしまいます。」
「大丈夫。こうなるのが普通だから…。面白い事にこれ、ひび割れの模様が入るだけで、日々の部分もちゃんと繋がってて砕けない…。さ、それより例の石を持ってきて。」
「あ、はい…。」

ヒビが全体に入るのをそのまま見つめていたいのに…と残念そうな顔をしながら、棚の方へ向かうと置いてある小さな瓶を持って戻ってきた。
瓶の中にはピリピリと小さな雷を無数放っている石が入っている。

「これ…何て言う石何ですか?」
「これは”雷石”雷がよく落ちる石の中を割ると稀に中に入っているんだ。一説にはこれが中にあるから雷を何度も呼ぶのでは?と言われてるけど、まだ詳しい事は分かってない。」
「へぇ…石があるから雷を呼ぶか、雷が何度も落ちたから石が出来たのか。まるで”卵が先か鶏が先か”みたいですね。」

と少し自慢げに微笑んだ。
瑠璃硝子の石が完全に冷えてひび割れが収まると、僕はその瓶に呪文を唱えた。

”数多光放つその光をその身にうけ堪えよ。汝、役目を果たし光と共に有る事を命ず。”

指で描いた文字が石の中へ溶けて消えるのを確認すると、ベドゥから小瓶を受け取り厚手の皮の手袋をはめて、中から雷石を取り出す。
雷石は瓶から出ると、待っていたとばかりに解放された喜びに雷光を部屋中に放ち、その矢が当たった物があちこちで派手な音をたてて割れている。

「ユ、ユルヨさん…!」

彼方此方で物が割れる中不安げに声を上げるベドゥを横目に、僕はサッと瑠璃硝子の火屋の中にそれを滑りこませ入れる。
そして急いで前もって準備しておいた真鍮の蓋をかぶせると、封をした。
部屋の中は散々な様子で、ベドゥが横で小さなため息をつく。

「もう…こうなるなら、前もって言っておいてくださいよ…。掃除しなきゃ…。」
「…そうだね。言ってなかった。ごめん。」

まるでどちらが師匠だか分らない様に、僕は小さく肩を竦め苦笑すると、
ベドゥは何時もの事ですからと言わんばかりに、諦めのため息をつく。

「さ、これで良い。出来たよ。」
「…綺麗ですね。」

部屋の惨事とは裏腹に出来上がったランプはとても美しい光を放っている。
ひび割れた瑠璃硝子に雷石の光が当たり、部屋の中にキラキラと光が瞬いていた。

「灯り、消してみようか。」

シュッと指を振い、部屋の明かりを消すと、その放たれる光は本来の力を発揮する。
瑠璃の色の影に青白い光や白い光や金の光が壁に当たり、まるで星雲の中に居るような錯覚を覚える。

「わぁ…。凄い…。」
「うん。この光に釣られて獏が来るんだ。」
「え、じゃぁもしかして…獏が見られますか?」
「残念だけど、獏は寝てる間にしか来ない。夢の中を渡り歩いてるから…。」
「そっか…。見て見たかったなぁ。」

ガッカリしたように肩を落とすベドゥの頭をヨシヨシと慰めるように撫で、パチンと指を鳴らして部屋の明かりを元に戻すと、
そのランプを灯りが漏れないように割れないように、黒いベルベッドの布に包みリボンをかけると、ベドゥへと渡す。

「さ、依頼主の所へ持って行って…。あ、『今日はこれで良い夢が見られますよ。』と伝えてね。」
「はい…。じゃぁ行ってきます!」

慎重にそれを受け取ると、ベドゥは家を出て行った。
きっと街へ着くまでに隙間から何度もその光を覗いては、獏の事に想いを馳せ道を歩いていくのだろう。
戸口から小さくなっていくその背中を見つめながら、今日はベドゥの所にも獏が来て、良い夢を運んでくるといいなと願わずにはいられなかった。

fin...