キュオスティとシュネー姫のお話。豊穣祭の最終日が舞台となっています。

イベントは終わっているので、アフターになりますが、キュオとシュネー姫の本編になりますので。ご了承ください。


連日続いたこの国の伝統の祭りである豊穣祭も、今日で終わりとなる。

昔から豊穣祭最終日に城で開かれる舞踏会で踊った男女は永遠にむすばれるという言い伝えがあり、この日は連日の舞踏会の中でも一段と人の出入りが激しくなる。

滞在していた諸外国の来賓達も明日には皆、それぞれの国へと旅立つ事もあって、

日中の街中も、城の中もありとあらゆる人でごった返すのが、例年の事だ。

去年までは国王付の一兵として、割り当てられた箇所での警備をするだけであったが、今年はそうはいかない。

姫の専属と言う事もあって、来賓等のもてなしをしなければならない姫の護衛にあたらねばならなかった。

それに伴い当然”舞踏会”なる物に見合った格好をせねばならず、我が武器も持ちこむ事が出来ない。

それに身に付ける軽装備の武具すら身に付ける事も出来ないということで、何とも心もとないなと思いながらも、その”舞踏会に合い相応しい恰好”というモノに身を包んだ。

「しかし…武器一つも持たずという訳には…行くまいな。あれだけの人の出入りがあるという事は、良からぬ輩が紛れ込んでいないとも言えまい。」

そう思った瞬間、一人の男の顏が頭の中をかすめた。

「今日は…あの男もきっと来ているだろうな…。」

騎士としての勘があの時ざわついたのは確かだ。

一介の調香師というには身のこなしに隙がなく、あの鋭い眼光はただの人であるとは思えなかった。

武器を持ち込むような無粋な真似も出来るはずもなくかといって、何もないでは有事に対応するのも難しかろう。だからといって、手になじむポールアックスを持って歩く訳にもいかない。

「…。」

思案した挙句、後ろ腰の部分へ鞘を付け、見た目には分らぬよう剣を提げた。

身支度を整え、姫の所へと向かえに上がる。

「姫…。お迎えに参りました。ご準備は宜しいですかな?」

「え、ええ…。あの…。お洋服…良くお似合いです…。」

「え?あ、あぁ…着慣れない物を着ると、何だか服に着せられている様な気もするが…。

姫の方こそ今日のドレスは一段と良くお似合いだ。」

何時ものドレスも良く似合うが、今日のドレスも姫の白い肌に良く映え、細身の体を包むそれはとても良く似合っていた。

そして頭の上で輝くティアラが、姫を姫らしくより一層引き立てている。

自分の事の様に誇らしくなり笑みがこぼれると、姫はこそこそと隠れようとする。

「え…何か俺おかしなこと言いましたか?」

「な、何でもありません…!」

困ったなぁと頭を掻いていると、姫のお付きの侍女だろうか?が姫の耳元へ耳打ちをするのが見えた。それを聞くと一瞬大きく目を見開き、おずおずと俺に近寄る。

一体、侍女は姫に何を囁いたのか?それは知る事も出来ないが、兎に角前に出て来てくれただけ、侍女殿には感謝せねばなるまい。

「ま、参りましょう…。早くしませんと!」

耳まで真っ赤にして言う姫の手を腕に取り、会場である大広間へと向かう。

会場が近づいてくると、聞こえ漏れる来賓達の談笑する賑やかな声と、小気味良よく軽やかな音楽の音が響いて来た。

「あー…姫。念の為申し上げておきますが、今日は人の出入りが昨日よりも多いので、なるべくお傍におりますので…。多少窮屈かもしれませんが、ご容赦を…。」

「窮屈だなんて…。い、いえ…はい。宜しくお願い致します…。」

いざ会場へ入るとその熱気と人の匂いにむせ返るようだった。

姫を前に俺は一歩下がって後ろをついていく。来賓に会釈をしながら、時には軽く談笑をしながら、会場を端へと抜けていく姿に、何時もとはちがう”姫”たる頼もしさの様な物をみた。

暫くそうして歩いた後、人ごみを分けて人々が踊っている輪の縁まで来ると、姫に声を掛けた。

「姫、少し休憩されては如何か?」

「ええ…そうですわね…。」

「それではこちらでお待ちください。飲み物を持って参りましょう。」

と周りに居る人々の顔を確認し、俺は何か口に出来る物を取りに行った。

軽い軽食の置かれた所で、口当たりの良い果物と程よく冷えた紅茶を取ると、姫の元へと戻る。

と、姫が見知らぬ男に声をかけられ怯えているのが見えた。

「シュネー殿。さ、こちらをどうぞ…。」

持ってきた飲み物を手に握らせると、その男に声をかける。

「こちらの姫君に何か御用でしたかな?大変申し訳ないが、姫はお疲れの様なので、どうかご容赦を。」

礼を取りお辞儀をしつつ睨みを利かすと、その男はそそくさと雑踏の中へと消えて行った。

「姫。大丈夫でしたか?お傍を離れ申し訳ない…。」

「ダイ…じょうぶ…。」

小さく震える姫を連れ、人があまりいない廊下に出ると、そこにあったソファへと腰を下ろさせた。

「少しこちらで休まれたらいい。あ、果物…持ってきてみたんだが、食べられるか?」

「有難う…御座います。」

そういって小さく微笑むと差し出した皿からつまむと口に入れた。

「美味しい…。」

「そうか…良かった。どうされる?具合が良くなければ…無理なされる事もなかろう。お部屋へもどりますかな?」

「…キュオスティ様。あの…。」

「はい?どうされた?」

戸惑う様に瞳の色をコロコロと変えながらいう事を考えている様子の姫が口を開くのをじっと待つ。

最近やっと、姫のペースを大切にするということを覚えた。

ごり押しをして、今までは急ぎ過ぎていたのかもしれない。自分の杓子で物事を考えるのではなく、相手の杓子に時には合わせる事も必要な事を、この姫から学んだ。

「あ、あの…。キュオスティ様は…舞踏会の言い伝えは…ご存じですか?」

「え?あぁ、あの豊穣祭最後の日の舞踏会で踊った者は、永遠に結ばれるという、噂の事ですかな?」

「はい…。」

「それが、どうかされましたか?」

「あ、あの…私…お、踊りたいです…。そ…その…。キュオスティ様が、宜しければ…。ご、ご一緒に…。」

「…俺と、ですか?」

「あっ!いえ…あの…お嫌でしたら…あ、その…。」

モゴモゴと口ごもりながら精一杯の勇気を出して言ったように思えた。

姫は、踊りたかったのか?確かにうら若い女性である姫であれば、煌びやかな舞踏会で踊る事を夢見ていたのかもしれない。

「嫌…ではありませんが、古の言いつがえが本当であれば、俺が生涯姫に付きまとう事になってしまいますよ?」

冗談ぽく言うと、姫は耳まで赤くして俯いてしまった。

「ははは。冗談が過ぎましたな。申し訳ない…。それでは、姫。踊りに参りましょうか?」

俯く姫の前に手を差出すと、姫の小さな手が重ねられる。

「噂が…本当であれば…と、思ってます…。」

姫が小さく呟いたそれは、周りの雑音に消されて、俺の耳までちゃんと届かなかった。

「申し訳ない。姫…ちょっと聞こえなくて…。何でしたかな?」

「い、いえ!なんでもありません!は、早く…参りましょう。」

そそくさと立ち上がり歩いて行こうとする姫の手を取り、再び会場へと戻った。

丁度その時、入り口を入った辺りで俺はとても良く見知った者に声を掛けられた。

「キュオスティ。」

「これは…父上。いらしていたんですか。」

「あぁ。今日で今年の祭りも最後であろう。陛下のお顔を見に参らない訳にはいくまい。所でどうだ。仕事は?」

「そうですね。仕事は…ええ。そつなく。今はこちらの姫の専属につかせて頂いております。姫、ご挨拶申しおくれました。こちらは父のライアット・G・エスコラと申します。」

「これはシュネー姫。ご挨拶が申しおくれましたな。キュオスティの父、ライアットと申します。どうぞお見知りおきを。」

「は、初めましてエスコラ卿。シュネーでございます。」

姫らしく父へと礼を取ると、父も臣下としての礼を取る。

「キュオスティ様…あ、あの…お父上様とお話もありましょうし、私は少しあちらで休んでおりますね。」

「いや、姫。踊りは…。」

「お話の後で…構いません。どうぞごゆっくりなさって下さい。」

「それでは…目の届く所にいらしてください。万が一の事がないともいえないので…。」

「あ、はい…。承知しております…。あ、ありがとう。」

姫は父に一礼をすると、少し離れた所で給仕が配っていたグラスを取り口にしているのが見えた。

目が届く所にいるのに安堵をし、父と近況を伝えあった。しかし男同士が話す話は、そんなに長い時間をかけるものではなく、直ぐに切り上げると姫の元へと行こうとした。

が、不意に見知らぬ女性達に行く手を遮られる。

「まぁ…素敵な騎士様ですわね。あの…私と一曲踊って頂けません?」

「いえ、私が先にお願いしようと、先ほどからお話が終わるのを待っていましたのよ?」

「まぁ!そんな事。私こそ同じです。後にして下さいません?ねぇ?騎士様。」

「何て失礼な人かしら!こんな失礼な方ではなくて、私と踊って下さいませ。」

「ちょ…ちょっと待ってくれ。失礼だがどこのご令嬢か存じ上げないし、仕事があるので、そこをどいてはいただけないか。」

「まぁ…そんな釣れない事を仰らないで?この舞踏会を楽しみで参りましたのに…。」

「しがない街娘の生涯の思い出作りだと思って、お相手頂けたら幸せですわ。」

何なんだ…この勝手な事ばかり云うご婦人達は…。女性故に恫喝して場をどかす訳にもいかず、

手間取っていると、つい今しがたそこにいたシュネー姫の姿がない。

「姫!?ちょっとどいてくれ!あぁ…ダンスはその辺にいる他の奴にして貰うといい。」

まとわりつくご婦人達を押しのけ、姫がいた筈のその場所に駆けつける。

が、その姿はどこにもなく、ただ何時か嗅いだ事のある、まとわりつくような特徴のある甘い香りと、姫が履いていた靴の片方だけがその場に残っていた。

「ランリート!!」

こぶしにした手を壁に叩きつけると、俺は姫の靴を拾い香りを追って宮殿内を走った。

だが、人の出入りが多いこの日は、香りを辿る等難しい事で、結局行方を見失ってしまった。

「姫…っ!!」

きっと奴は、俺に隙が出来る事をずっと目で追っていたに違いない。

俺だってそれを危惧して姫にはなれるなと言ったのではなかったのか。

自分の愚かさに腹立たしく思い、何もかも壊してしまいたい程の怒りを覚えていた。

けれど、何かを壊して姫が戻るのか?

今は、一刻も早く姫を奪還する事を考えなければ…。

独りでどうこう出来る事でない事位、バカな自分にだってわかる。

冷静な判断と迅速な対応が姫を無事に救い出す鍵となるだろう。時間が勝負になる。

そう思った俺は、クッと怒りの気持ちを堪え、自分の失態の報告と助力を願いに王の元へと報告に向かった。

処分を心せねば…。そう思うと王の元へ向かうその足取りはとても重かった。

 

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