アルバへ来て数週間たった。

アルバ王の言った通り、ここでは自国の様に俺を扱われる事は1度もなく、ただ穏やかに日々が過ぎて行っていた。

けれど、数年虐げられた身には、直ぐにそれの平和を受け入れる事が出来ず、

消えない手首の傷を見るたびに、体が震えた。

そんなある日。クロード王子が部屋へ訪ねてきた。

 

「なぁ、エドガー。君、字は書けるかい?」

「字…?多分…。あ、でも少し…なら。」

 

まだ人と話すのは怖い。外へ出るのも。

この国はどうやら王と国民との敷居が低いらしく、普段から城の中には王の侍従の他に一般の人や他所から流れてきた旅人等、ありとあらゆる人が、沢山出入りしていた。

だから必要以上外には出ず、部屋に閉じこもっている。

それを気にして王子や姫がちょくちょく遊びに来ては話していく。

たまに陽に当らないと体がダメになると、女王自ら「手伝ってくれるか?」と理由をつけては外へと連れ出しに来る。

何も起こらない日々。淡々と静かに過ぎてゆく時間に、癒されるどころか目的を見出せず焦りを感じていた。

 

「そうか、なら少し…僕と勉強。してみないか?」

「…勉強?」

 

幼かった頃、勉強するのは嫌いじゃなかった。古い家だけあって蔵書は沢山あり、良く書庫で物語を読みふけっていた事を思い出す。

 

「そう。つまらないかもしれないが、学ぶ事は悪くないと思うから。」

「いえ…。勉強は、好きです。」

「そうか。じゃ、明日から少しずつはじめよう。本当は学舎へ行くといいんだが…。まだ、難しいだろう?」

「学舎…。」

「そう、学舎。いづれ君が外へ出られるようになったら、通うといいよ。友達を作って学んで経験して…な?」

「…。」

 

あの生活を送る中では学校へ行くなんて選択肢はなく、考えた事がなかったからとても驚いた。

返事につまって俯いていると

 

「今すぐ考えなくていいさ。まずはこの城の中から出られるようになる事を目指そう?な?」

 

と優しく微笑んだ。

それからの日々、空いている時間にはクロード王子やフォルトゥーナ王女に文字や史学色々な事を教えてもらった。

外へも少しずつ出られるようになった。

そんな頃、勇気を出して”学舎”へ行ってみる事にした。もっと沢山学びたかった。

 

”大丈夫…。文字もちゃんと書けるし、勉強も出来る様になった。大丈夫…。”

 

そう言い聞かせて城を出る。

 

”服もちゃんとこの国の服を着てるし…大丈夫…。大丈夫…。”

 

呪文のように心の中で呟きながら早足で学舎へ向かった。

城からすぐの学舎は平屋造りでこじんまりとしている。

入口からそっと中へ入ると、小さい子から少し大きな子まで入り混じって遊んでいた。

 

「あー。知らない子だー?」

と小さな子が近づいてくる。

 

それに伴って

 

「お兄ちゃん誰ー?」

「どこから来たのー?」

 

と俺を取り囲み揉みくちゃにする。

 

”怖い…。やめて…近づいてこないで…。”

 

相手は子供だというのに取り囲まれる事に恐怖を感じていた。

 

「ぼ、僕は…。」

 

何か言わなきゃ!名前を…!!と思っていた瞬間

 

「ねー、一緒にあそぼー?」

 

と一人から手首を掴まれ引っ張られた。

 

「わぁああああああ!!!」

 

他人にその傷を触れられたことで、肌を這うあの王の感触を思いだし恐怖に叫んで学舎を飛び出していた。

 

To be continued…