●憧れと望郷


【うちの子よその子ファボ妄想】その2。ニオとチヨちゃんのお話。

登場人物:ニオ。チヨちゃん(@hanyamaru22)


「ふぅ…。もう買い物へ来るのも少し大変になってきましたわね。」

 

家をヘイトさんが購入するとの話を聞いて、庭に畑が付いている事を知り、

家で作る作物の種類を増やそうと、種を求めに来ていた。

市場の横にあった岩に腰かけ少し休んでいると、不意に声を掛けられた。

 

「あの!貴方(おはん)ワ国の方じゃっとな!?」

 

見上げるとそこには黒髪を二つに結んだ可愛らしい女の子が立っていた。

 

「えぇ。私はワ国の出ですが…今はこの国の民となりました。貴方は?」

 

と問うとその大きな目がキラキラと輝いてぴょんぴょんと跳ねている。

 

「わぁ!!ワ国の人!!凄い!あ、あたいはチヨって言います。」

「チヨちゃん…。じゃぁ、貴方もワの方?」

 

名前からワの国の子かと訊ねてみると首を横にブンブンと振る。

 

「うぅん!違うの。あたいはこの国で生まれたから、この国の子だよ!父さんがワの人なんだ♪」

 

くるくると楽しげに表情を変える少女はとても可愛らしい。

 

「そうなの。私はニオと言います。ニオ・シノノメ。ワ国の出でもうすぐこの国の方の元へ嫁ぎますの。」

「わぁ!そうなんだ!ねね、お腹の中赤ちゃんいるの?触っていい??」

「えぇ、良いわよ?」

 

というと顔を紅潮させながらそっとその小さな手を乗せて撫でる。

 

「うわぁああ~。何かポコポコしちょっ!」

 

興味津々とばかりに見つめてくる姿に笑みが零れる。

 

「そうね、丁度今起きてるのかしらね?ふふふ。あ、そうだ。そう言えば何か用事があったのではなくて?」

「あ!そうじゃった!あんね、あんね!ワ国ってどげな国?あたい父さんの生まれた国がどげな所なのか、興味があるんだぁ。」

「まぁ、ワ国の事が訊きたかったの?ふふっ、そう。じゃぁ少し場所を移動しましょうか。」

 

というと手を繋ぎ酒場へと向かった。

 

「今日は。ウィアラさん。ムタンジュースを頂ける?」

 

注文をし椅子に腰かけると少しばかりホッとする。

 

「さぁ、良いわ。ワ国の何が知りたいの?」

「あんね。何でもいいの。ニオさんが住んでた所はどげな所?」

「そうねぇ…。この国にもあると思うけれど、春になると桜並木がとても綺麗に咲き誇るの。

それから…そうねぇ。街の人たちはこの国の人の様には背が大きくはないわね。」

 

とい言うとホォ…とした顔でうんうんと頷きながら聞いている。

 

「ねぇねぇ、他には??もっと教えてくれる??」

「ふふっ、そうね…。この国のお家は靴のままで生活するでしょう?ワではお家に入る時は玄関で靴を脱ぐのよ?」

「へぇー!?足汚えちゃわなかと?」

「靴は入口で脱ぐから、土が家の中に上がる事がないから汚れないわ。」

「ふぇー…。何だかいちいち、大変なんじゃっど…。」

「生まれてからずっとその生活だから、そんなに大変じゃないのよ?慣れの問題かしらね?」

「慣れかぁー…。父さんがそう言えばたまに靴、家で脱いでる事があるっけ?」

「ふふふ。もしかしたらそのお父様も、昔の癖がここでも抜けないでいるのかもしれないわね。」

「ほぇ~。そうなのかな?家に帰ったら訊いてみよう!」

 

というと楽しそうに笑う。

 

「それから…。」

 

と言って懐から小さな小箱を取り出す。

 

「私の家はワ国で和菓子屋をやっているの。これはそのうちのお菓子よ。」

 

と蓋を開けると中から花の形をした小さな落雁(砂糖菓子)を取り出す。

 

「わぁ!綺麗!!これ何??」

「これは落雁と言ってワの国のお菓子なの。さ、どうぞ?」

 

と差し出すと、オズオズと手を伸ばし抓む。

一度私を見ると口の中に入れと、大きな瞳を更に大きく開けて私を見る。

 

「美味しぃいい!!何これ!?あまぁい!!」

「まぁ。ありがとう。喜んでもらえて良かったわ。そうだ、良かったらこれ、お持ちになって?

お父様も、もしかしたらうちの…しののめ屋を知っているかもしれないから。

是非一緒に食べてお父様からも、一杯お話聞けるといいわね。」

「いいの!?ホントに!?」

 

手のひらに小花をあしらった和紙で作られた小箱を乗せると驚いた目で見る。

無言で小さく頷くと、

 

「有難う!そうするよ!お父さん食べた事あるかなぁ?」

 

と嬉しそうに笑う。

話し込んですっかり長居をしてしまったようで、外を見れば陽が傾きはじめていた。

 

「あら、もうそろそろ帰らないと…チヨちゃん、またワの国の事お話しましょう?今日はとっても楽しかったわ。」

「ホントだ!もうお日様が沈みかけてる。ニオさんごめんね。」

「いいのよ。帰り、一人で大丈夫?」

「うん。大丈夫!またお話聞かせてね!」

「ええ、今度は桜餅を用意しておくわね。」

 

というとにっこり笑い手をブンブン元気よく振り”またねー!”と背を向け走って行った。

その背を見ながら、自分のお腹を撫で近い未来の自分の子のと重ね合わせ、その背を見送った。

 

fin.